線形合同法とp進整数と縮小写像
を素数,を正整数,を整数とする. を $$f(x) = a x + b$$ で定める.
命題1
がの倍数であると仮定する. このとき次が成立する.
証明.(1)と(2):
$$ f(x) = x \iff (a-1)x \equiv -b \pmod{p^e} $$ だが,今がの倍数なので,はと互いに素.よってこの一次合同方程式には解が一意に存在する.
(3): 数列の一般項は $$ x_n = a^n x_0 + (1 + a + a^2 + \dots + a^{n-1})b $$ となる.がの倍数なのでとなるがある.するとなら $$ x_n = (1 + a + a^2 + \dots + a^{{n_0}-1})b $$ となって一定値をとる. ■
ところで次のようなよく知られた定理がある.
定理 (Banachの不動点定理)
を空でない完備距離空間,を次を満たす写像とする: あるがあって任意のについて $$ d(f(x), f(y)) \leq k\,d(x, y). $$ このときの不動点がただ一つ存在する. また任意のに対して数列は不動点に収束する.
Banachの不動点定理によって最初の命題を証明できないだろうか.には距離は離散距離しか入らないので使えそうにない.そこで進整数環と呼ばれる空間を考える.
進整数環の定義はここではしないが,次のような性質を持つ.
は上の写像であったが,これを上に修正したものをで表す: $$ \tilde{f}: \mathbb{Z}_p \ni x \mapsto (ax+b) \in \mathbb{Z}_p$$
このはBanachの定理の仮定を満たす.実際,
\begin{align*} d(\tilde{f}(x), \tilde{f}(y)) &= |(ax+b)-(ay+b)|_p \\ &= |a(x-y)|_p \\ &= |a|_p |x-y|_p \\ &= |a|_p d(x, y) \end{align*}
であり,がの倍数だからである.
よっての不動点が存在し,それをで移せばの不動点を得る.ゆえに命題の(1)が示された. また,に離散位相を入れたとき,が連続写像になるので,そこから命題の(3)を得る. (なお,残念ながら,命題の(2)はこの方法では示せない.)
以上よりBanachの不動点定理によって最初の命題を(一部分を除いて)示せることがわかった.
(偶数なことに注意!), としてみると次の表のようになる.下の桁から順に固定されていっている様子がわかる.